悪霊から守ってくれた今は亡き祖母のお守り
霊能者が語る心霊体験(3)
深水先生
私が自分の霊能力を誰かのために使おうと決心し、修行の道を歩む前、子どもの頃のお話です。
私は幼少期より自分が他の人とは違う力を持っていることを自覚しておりました。俗に言えば『霊感が強い』ということなのですが、誰かにそれを言うわけでもなく日常を過ごしていたわけです。
幼い時分の私は、身体も弱く引っ込み思案な性格でした。今振り返れば、何か霊的な波動に敏感なせいで、身体を弱らせていたのだとわかるのですが、その時の私はそんなことを考えもしなかったでしょう。私はよく熱を出す子どもで、学校を休む事がとても多く、両親が共働きであったために家でひとり留守番することがよくありました。
その時の私といえば、霊感が強いと言っても、今のように日常的に霊を見ることができたり、霊視をしたり、ましてやそういった悪い気から身を守ることもできない子どもでした。あの世とのチャンネルがふっと合ってしまったその時に、見たくないものを見てしまったり、何かにいたずらされたりと、とても苦労したことを覚えています。
あれは小学校4年生の夏。夏風邪をこじらせて3、4日学校を休んでいた間の出来事でした。今でもはっきりと思い出せる、背筋が凍るような出来事です。
私は夏にも関わらず、熱が出たらとにかく汗を出せという母の言う通りに、重い布団に包まり、熱でぼーっとした目線を少し開いたふすまに向けていました。
その頃私が住んでいた家は木造の2階建てで、ほこりっぽい家でした。私たちはその家に10年ほど住んでいたのですが、その頃から、何か嫌な感じのする家で、私たちが引っ越したすぐ後に取り壊されたようなのです。
私たち家族は父、母、私の三人家族で、何か霊現象があったと訴えるのは私ひとりでした。父や母はそういった感覚に疎い人だったのです。私はその家でたまに何かの気配を感じ取っていました。もう小学校4年生ですから、なんとなく、よくないものなんじゃないかとか、幽霊がいるんじゃないかとか考えていたのですが、母や父にそれを訴えても取り合ってもらえず、私はひとりで留守番するのが怖くて怖くて仕方がありませんでした。
私は先ほど書きました通りに、ふすまの少し開いた所を注視しておりました。何故だか気になるのです。最初はなんの気なしにその隙間を眺めていたのですが、だんだんその隙間が広がっているような気がしてきました。私の眠っていた部屋は2階の一番奥の部屋で、ふすまを開ければすぐに廊下があります。夏の昼間なのに、そのふすまの先が暗くてよく見えないのです。これだけ明るければ廊下の床や壁が見えそうなものですが、ほの暗いもやが掛かったようにうやむやな暗さで私はそら恐ろしい気がしました。
だるい身体で起き上がる気にもなれずに、寝返りを打って窓側を向いて眠ろうとしましたが、今度はその隙間からなにかが伸びてきて、背中のすぐ後ろをうようよと漂っているのではないかという気がして、じっとしていられません。そんな事はないはずだと考えるのですが、そんな気配がするのです。
私はたまらなくなって起き上がりました。机の上の時計をみても、針はまだ2時を回ったばかりで、父や母が帰ってくるにはまだまだ時間があります。後ろを向いていると、何かよくないものが襲って来るような気がして、またふすまの隙間に目をやりました。すると、やはりその隙間が広がっているのです。隙間が広がっているというよりはもう、ふすまが勝手に開いていっているといったほうがよいでしょうか。
私は戦慄しました。今までは誰かがいるのではないかという気配だけを感じ取っていたのですが、その時、私はやはりこの家には私たち家族以外の『何か』が棲みついているのだと確信しました。そして、弱ってひとりになった私をどうにかしようと、その何かはこの部屋に侵入しようとしてきているのだと、私はそう直感したのです。
私はじりじりと広がっていくその隙間をじっと眺めていることしかできませんでした。色々思案している間にも誰も気付かないようなスピードでゆっくり開いていくふすまをただ眺めているだけです。これは熱に浮かされてみている夢なんだと思ってみても、ふすまはどんどん開いていきます。勘違いかと思っても、確実にふすまは開いていっています。そのうち、もう人がひとり通れるくらいにふすまが開いてしましました。
そして、私は見たのです。長い髪で顔を隠した、女の姿でした。私が霊の姿をはっきりと目視したのは、その時が初めてでした。私はがたがた震え、熱のせいで出た汗なのかどうかわからないけれど、着ている寝巻きが汗でどんどん重くなっているのを感じました。私はそのうち恐怖のあまりに目をぎゅっとつぶって布団に潜り込みました。そしてその時、ふっと数年前に亡くなったおばあちゃんのことを思い出したのです。
おばあちゃんは不思議な人でした。いつも人と違うような雰囲気をまとっていて、親戚からは何故か敬遠されているようでしたが、私のことはとてもかわいがっていてくれました。
今振り返れば、おばあちゃんには私と同じような力があったのかもしれません。私の唯一の理解者だったと言ってもよいでしょう。おばあちゃんは、亡くなる直前に私にお守りをくれていました。『これを肌身離さずもっていれば、お前を守ってくれるからね』私はおばあちゃんのその言葉を思い出したのです。そのお守りは机の上に広げてあるランドセルにつけてあります。
私は勇気を振り絞って布団から出て、そのお守りをとってぎゅっと握り締めました。『きっとおばあちゃんが守ってくれる』私は自分にそう言い聞かせて、意を決してふすままで歩いていきました。熱のせいでおぼつかない足取りで、でもしっかりと歩いていきました。私が女に近付くと、うつむきがちだった女がゆっくりと顔を上げたのです。私は握り締めていたお守りを、その女めがけて投げ付けました。すると、そこに確かにあった女の姿が、煙のようにふっと消えたのです。薄暗かった廊下も心なしか明るくなったような気がして、私は『ああ、助かったんだ』と確信しました。
私は廊下に落ちたお守りを拾い上げて、そのお守りの口を開けました。おばあちゃんには、見ては効力がなくなってしまうからと中を見ることを禁じられていました。その巾着の中には、不思議な色をした数珠のようなものが入っていました。そして、その数珠は糸が切れてしまっていて、お守りから出したときにぱぁっと散らばっていってしまったのです。このお守りは、役目を果たしたんだなと幼い頭で考えて、私はその数珠玉を拾い集めてもう一度巾着に入れて、おばあちゃんの仏壇においてお礼をいいました。
その日から、その家で私の身に何かが起こることはなくなりました。ただ相変わらず何かの気配を感じてはいましたが、前よりももっとそれが弱まっているようでした。その出来事があってから、私は幽霊の姿をはっきりと目で見ることができるようになったのです。恐ろしい体験でしたが、私の霊能力はその時に強まったのだろうと思います。
その後、私たちはすぐに引っ越してしまいましたが、つい最近故郷を訪れた際に取り壊されていたことを知りました。そしてその家の跡地に訪れると、確かにあの時に見た女があの家にいたのです。その女は私たち家族がその家に住むずっと前にその土地で自殺した女の霊なのでした。修行を終えたその時の私には、その女を見ただけでその事がわかりました。家が取り壊されることになったのも、次にその土地に住んだ住人の身に起きた霊現象が原因でした。私はその女を除霊し、土地を祓い清めました。ですからあの土地でもう霊現象が起こることはないでしょう。
あの時おばあちゃんにもらったお守りがなかったらと考えると、修行を終えた今でも背筋が凍るほど恐ろしい出来事です。