ほんとうは恐ろしい占いの話
不気味!異様!常識外れ!~正体不明の占い師 5題【2】
正体不明、得体の知れない不気味な占い師のエピソード。その2話目は、薄暗いビルの地下街で不吉な未来を告げる霊感占い師の話です。この体験談は、日頃から天啓をよくリピートしてくださるお客様である徳島県在住の彩花さん(仮名)からお聞きしました。
【その2】ビル地下の霊感占い師
投稿者 彩花さん・27歳・徳島県在住
以前、天啓さんで鑑定をしていただいた時、胸の奥にしまっていたある思い出をお話ししたところ、担当してくださった先生から、「もし良かったら、短い手記などの形にまとめて披露して欲しい」とお願いされました。人の死が関わっている話なので当初はあまり気が進まなかったのですが、最近読んだ実話怪談の本の中に、「心霊現象の体験者は一種の厄払いのつもりで自分の体験を話す」という旨の一節を見つけ、急に書く気になりました。
今から約10年前、私が高校3年の時のことです。当時、通っていた女子校はとくに進学校というわけではなく、また私自身も大学受験をするつもりはなかったので、高校最後の夏休みはアルバイトに明け暮れるような生活を送っていました。でも、高校最後の夏シーズンをただ働くだけで過ごすのももったいないと感じ、自分と同じく専門学校進学組の同級生を誘って、大阪へ遊びに出掛けたんです。
同行してくれたN恵という子は、当時よく校内でつるんでいた遊び仲間の1人でした。彼女は翌春から大阪市内の調理師学校へ進むことを決めていたので、どうせなら下宿先の下調べもしたいと言って付き合ってくれました。またこのN恵はオカルトやスピリチュアル系の話が大好きで、一時期は占いにもかなり凝っていました。行きの高速バスの車中でも、「大阪で今、一番注目されている占い師に運勢を見てもらうんだ!」と顔をほころばせていたんですが、残念ながら彼女の期待は空振りに終わりました。
現地に到着した次の目、目当てにしていた占い師が在籍している占い館に行ってみたら、その日はすでに事前予約で埋まっており、空きが出るのは早くても次の週明けからだと断られてしまったんです。もちろん事前によく調べなかった私たちが悪いのですが、事前の予約電話の番号が不通だったことや、ネットの口コミでは当日の飛び込みでも鑑定してもらえるようなことが書かれていたので、それを鵜呑みにして裏切られたわけです。N恵はもうテンションだだ下がりで、ろくに口も利かなくなっちゃいました。
「どうせ、春からこっちに住むんだから、いくらでも見てもらう機会はあるじゃん」と、こちらが気を遣って慰めても、「ほなけん(だから)、その新生活について見てもらおうと思ったのに…」と、なおさら落ち込んで不機嫌になる始末で、ちょっと険悪な雰囲気にすらなってきました。
(今までよく気づかなかったけど、かなりワガママだな…。お嬢様育ちだからかな)ツンケンした感じのN恵の後ろを一歩離れて歩きながら、こんなことなら1人旅の方が気楽だったかも、と後悔していました。そんな時、たまたま路上の小さな看板文字が目に留まったんです。
『占』と一字だけ書かれた素っ気ないスタンド看板が舗道の脇に置かれていました。その矢印が示す先には雑居ビルの地下階段があり、薄汚れた暗い踊り場と切れかけた蛍光灯の照明がチカチカと点滅している様子が見えました。「ここにも占いがあるね」と、私とほぼ同時にN恵も気づいたらしく、それまで眉間に浮かんでいた険が急に消えるのが見えました。明らかに興味を示したようで、私は嫌な予感しかありませんでした。ただ、予感とはいっても霊感とかその類いではなく、女の子の感性的にドン引きするような建物だったんです。そのビルは本当に古ぼけていて薄汚くて、見るからにオジサン臭い場末感が漂っていました。
「何か暗くてキモいよ。見るからに当たらなそうな感じだし…。何ならもう一度、心斎橋の方へ戻ろうよ」
「でもさ、ほら、見てよ」
と、N恵は舗道の先を指差しました。向かいから近づいてきた30代くらいの女性が、そのままビルの地下階段へ吸い込まれて行く様子が見えました。またそれとほぼ入れ替わりに、今度は少し若いOL風の女性が同じ階段を上がって来ました。
「なかなか繁盛しているみたいだよ」
「アレが占いのお客かどうか分からないじゃない。他の店に来たんだよ、きっと」
「じゃあ、試しに様子を見てみようよ!」
繰り返して書きますが、うらぶれた入口の有様だけで、女子高生の期待に応えてくれるような場所でないことは一目瞭然だったのです。しかしその時のN恵は妙に乗り気で、躊躇する私を残してさっさとビルに入ってしまいました。
しかたなく後に続くと、階段の先の地下階は左右に長い廊下が伸び、居酒屋やスナックなど間口の狭い店が並んでいました。時間帯が早いせいかほとんどの店がシャッターを降ろしていたのですが、その中で一軒だけ灯りが漏れている一画があり、全面ガラス張りになっている入口部分には、地上の立て看板と同じ『占』と書かれたステッカー、さらにタロットの図柄を模したイラスト風の紙が重なるようにして貼られていました。
ガラスの内側はカーテンで覆い隠されていて、店内の様子を窺うことはできませんでした。ただ、扉の取っ手に「只今、1時間待ち」という札が下がっていたので、先に階段を降りていった女性が入店していたのかもしれません。少なくともN恵はそう信じている様子でした。
「1時間待てば見てもらえるのかな?」
「えっ、本気なの?やめとこうよ。志村○んのコントみたいなヨボヨボのバアちゃんが、フガフガ言いながら出てくるよ。臭そうだし、絶対に当たるわけないって」
「見てもらうのは私なんだから、ほっといてよ。マクドかなんかで時間潰して、1時間経ったらまた来てみるよ。もし彩花がどうしてもイヤなら、後でどこかで待ち合わせしてもいいよ」
その時のN恵の執着は尋常ではなくて「ここには絶対、当たる占い師がいる!」、「とにかく、ピンッと来たの!」の一点張りだったのです。結局、私の方が折れることになり、言われた通りに時間潰しをして、きっかり1時間後に再び店を訪れました。すると先ほどの時間待ちの札の代わりに、「すぐに鑑定できます」と書かれた札が引っ掛けられていました。
恐る恐る扉を開けると、ガランとした薄暗い室内に黒いドレスを着た中年女性が立っていました。目鼻立ち自体は整っているものの、どことなく掴み所のない容貌で、黒一色の衣装を除けば神秘的な雰囲気が漂っているわけでもなく、本当にどこにでもいるような普通のオバサンでした。
「いらっしゃい。予約のお客さん?」
「いえ、その、通りかがかりに看板を見て…」
と、N恵が口ごもりながら答えると、
「ああ、飛び込みの方ね。かまへんよ。今日は夕方までヒマやから」
占い師はそう言いながら明るく笑い、私たちを奥のスペースへ招き入れてくれました。そこは紫色のテーブルカバーで覆われた大きな机があるだけの殺風景な部屋で、N恵は占い師の真正面の席、付き添いの私はその横のパイプ椅子に座るように促されました。それでさっそく腰を降ろしたのですが、肝腎のN恵はぼんやりと突っ立ったまま、呆けたような表情を浮かべていました。
「ちょっとアンタ、どうしたの?」
「えっ?あっ、うん…」
彼女のスカート裾を引っ張ると、ようやく我に返って椅子に座りました。
相談していたのは都合1時間くらいだったでしょうか。「予約のお客さんが来るまでは無料で延長してあげる」と言われ、そのいかにも下町っぽい人の良さに好感を抱いたのですが…。表の看板の様子から、私もN恵もタロットカードを使って占うものとばかり考えていました。しかし、実際には霊感占い師でした。具体的な相談に入る直前、「チャネリングと透視で人の運勢を見る」といきなり言われたのです。
「あの、それじゃ、あの入口に貼ってあるタロットは?」
黙りこくったN恵の代わりに私が突っ込むと、
「タロットでも易でも何でも占えるけどね、最後はいつも霊感で判断しているのよ。だから、特別な道具は使わなくても大丈夫。生年月日とお名前だけ聞かせてもらえれば、大抵のことは分かるから」
と、平然とした顔でそう返され、ますます唖然となりました。
(大丈夫って…。チャネリングでどうやって人を占うんだヨ?まさか、宇宙人と交信するわけ?)
今では天啓さんに全幅の信頼を置いて、色々なことを相談させてもらっている身ですが、当時はまだ霊能力や霊感の世界に馴染みがなく正直、胡散臭さしか感じませんでした。しかし実際の透視が始まると、そんな猜疑心は瞬く間に氷解しました。
「…色々と見えたけれど、一言で言えば万事順調です。無事に調理師免許も取って、将来は実家のお店を継いで、問題なくやって行けます。女性の板前さんって風当たりが強いかもしれないけれど、ぜひ頑張ってね」
「えっ!?」
N恵と私は顔を見合わせました。じつはN恵の実家はわりと大きな日本料理屋さんで、彼女はそこの家の長女なんです。他に男の兄弟がいないため、行く行くはお婿さんを迎えて店を継ぐことになっていたんです。でもN恵自身は女将さんとして店を切り盛りするよりも、むしろ板場に立つことを望んでいました。それで、お父さんの許可を得て調理師学校へ進学し、免許取得後は板前の修行をする予定になっていたのです。
占い師はそうした私的な事情について、一切の事前説明もなく正確に言い当てたというわけです。またこれをきっかけに、N恵の高校での交友関係や恋愛問題、とくに彼女が当時片想いをしていたサッカー部の男子のことなどを怒濤のように当て続けました。あまりにも鮮やかに的中させるので、それまで借りてきた猫のようだったN恵もにわかに身を乗り出し、最後は夢中になって占い師の話を聞いていました。彼女にしてみれば、あっと言う間の1時間だったと思います。
やがて鑑定が終わると私たちはお礼を言って席を立ち、そのまま見送られて店の外へ向かいました。占い師に唐突な言葉を投げかけられたのは、その時です。
「ああ、そうだ。ひとつ、言い忘れてた。婆さんは明日、連れて行くからね」
前後の脈絡のない、意味不明の一言でした。しかし、言われたとたんにN恵の顔が青ざめ、全身がブルブルと震える様子が見て取れました。傍の私は事態が飲み込めず、驚いて占い師の方に視線を転じると、その顔には最前と打って変わった意地悪げな表情が浮かんでいました。脅えるN恵の姿を眺めながら口の端を大きく歪め、
「今のうちにお別れしておきなよ。明日はもうこの世にいないからね」
そう言い終えるやいなや、店のドアがピシャリと閉じられ、とたんにN恵は地下フロアを飛び出しました。私も慌てて後を追いかけ、息を切らせてその背中に追いつくと、嗚咽しながらすがりついてきました。
「なにっ!なにっ!何なのよっ!一体、どうなってんのっ!全然、意味が分かんない!」
「あ、あれ…私のママ…やっぱり、ママだった…」
「えっ?それ、どういうこと?!」
「だから、ママが化けて出たんだよ…」
それ以上、聞き出すことはその場では無理でした。それでとりあえずタクシーを拾い、宿泊先のホテルに戻ってから、ようやく詳しい経緯を知ることになったのですが…。
時折、言葉を詰まらせながらN恵が言うには、
「じつはあの占い師の顔、離婚して家を出て行ったママにそっくりだったの。あまりにも似過ぎているから、懐かしいっていうより何だかキモチが悪くなっちゃって」
「えっ、そうだったの?!でも正直、アンタと似ている感じはしなかったけど…」
「私、子供の頃から父親似って言われているから。それでも、どこかしら似ていたはずだよ?」
「ああ、今、何となく分かったよ!でも、あの人、そこまでお母さんに似ていたの?」
「うん。まるで双子かクローンみたいだった。今のケータイにはママの写真が入ってないから、ここですぐに証明することはできないけれど」
「だから最初のうち、おかしな雰囲気だったんだね」
「そうだよ。でも、びっくりするくらい当たっていたから、そのうちにそっちの方へ気を取られちゃった。似ているのはただの偶然だって、自分に言い聞かせて…」
その後、N恵は自分の家庭の複雑な事情を、初めて打ち明けてくれました。私も何度か会ったことがある彼女の母というのはじつは父親の後妻で、産みの母親の方は出身地の九州で暮らしていると言うのです。
「中1の時にパパとママが離婚したんだけれど、原因は先代の女将、つまりウチの祖母ちゃんだったんだよね。私が産まれる前からママと祖母ちゃんとは凄く仲が悪くてさ、最後の時期はママ、ちょっとノイローゼみたいになっちゃって…」
「それもしかして、嫁いびりっていうやつ?」
「まあ、そんな感じなのかな。どっちが悪かったのかは分からないけれど。2人ともワガママで勝ち気な性格だからさ」
「じゃあ、あの占い師が最後に言ったことは…」
「そう。連れて行くって、どう考えても良くない意味だよね…」
どちらともなく言葉が途切れ、私たちは無言のまま見つめ合いました。するとその瞬間を見計らったかのように、今度はN恵の携帯に着信が入りました。電話の主は父親で、彼女の実の母親が急死したという報せでした。
自殺だったそうです。1人暮らしのアパートの室内で、衝動的に首を吊ったらしいのですが、その死亡推定時刻はN恵が運勢を占ってもらっていた時分とちょうど重なっていました。そしてさらにその翌日には、家で同居していた父方の祖母も心不全で倒れ、これもまた同じ日のうちに帰らぬ人となりました。占い師の言葉通り、N恵の母親がその祖母をあの世へ連れて行ってしまったというわけです。
立て続けに2人の身内の死に直面したN恵は、夏休みが終わってからもしばらく登校せず、一時は退学するという噂も流れましたが、何とかショックから立ち直ることができて無事に高校を卒業。予定通りに調理師学校へ進みました。
それからまた少ししてN恵から連絡があり、「どうしても気になるから、勇気を出してもう一度、あの場所へ行ってみた」と聞かされました。しかし、同じ雑居ビルを見つけることはできたものの、占いの店があった地下の一画はスナックのような飲み屋さんに変わっていたそうです。
「商売替えか撤退でもしたのかなと思って、同じフロアの別の店の人に聞いてみたの。そうしたら、『今までここの地下に、占い師の店が開いていたことなんかない』ってはっきり言われちゃった。なんかもう私、頭がおかしくなりそう。こんなことなら、確かめになんか行かなきゃ良かったヨ…」
電話越しに泣きながらそう言われ、私も言葉を失いました。N恵とは今でもたまに顔を合わせることがありますが、あの日の体験を話題に持ち出すことはそれ以来、2人の間のタブーになっています。
天啓の先生に伺ったところ、直に対面して行う霊能鑑定では、相談者に縁の深い故人などの顔が霊能者の顔と二重写しになるような現象がたまに起きることもあるそうです。しかし、そもそも私たちが訪れた占いの店自体がこの世に存在していなかったとなると、それはもう別の次元の話になります。
あの時、私とN恵は同時に同じ内容の幻覚を見ていたのでしょうか?それともあれはやはり現実で、自殺する直前だったN恵の母親の生き霊が、霊感占い師の身に憑依したということなのでしょうか?そんな答えの出ない思いを巡らせるたびに、あらためて困惑と恐怖が甦ります。