ほんとうは恐ろしい占いの話
神の宣託?悪魔の暗示?
タロットカードの象意にかかわる体験談 3題
みなさんはタロットカードで1人占いをしたことはありますか?
難解な占術理論や専門知識を修得しなくてはならない四柱推命や西洋占星術などと違って、タロットを使えば誰でも簡単に様々な物事を占うことができます。現在、過去、未来にわたる全ての事象が各カードの絵図に象徴的な形で描かれていること、さらにその源流は古代オリエントの魔術文化にあることなど、入門の容易さとは裏腹に神秘的な探究心まで満足させてくれることもこの占術ならではの特色と言えます。
今回はそんなタロットカードの象意が関わった怪異体験談を集めてみました。3話目の最後には、天啓所属の霊能者の先生からいただいたコメントも併せて掲載しています。
【その1】塔から人が落ちてくる…
投稿者 早苗さん・31歳・北海道在住
自分自身の高校時代の話です。この話、今までに何人もの友達や知り合いに話してきたんですが、本気で信じてくれた人はまだ誰もいなくて…。霊能鑑定のホームページなら真面目に取り上げてくれるかな、と思って投稿しました。できれば霊能者の先生のご意見も聞きたいです。
その日の放課後、私は独りで窓の外の景色をぼんやり眺めていたんです。別段、校内に居残る理由はなかったんですが、強いて言えば少し体調が悪くて身体を動かすのが何となく億劫でした。
そこの学校、市街地を見下ろす丘陵に建っていまして、坂道が急なので通学はしんどかったけれど、とても見晴らしの良いロケーションだったんですよ。だから、窓からただ外の景色を見ているだけでも見飽きないって言うか、春には眼下の川沿いの桜景色、また秋になれば山の紅葉も眺めることができました。わざわざ屋上まで上がらなくても市街が一望できるんです。それで毎年、花火大会が開かれる時には夏休み中の生徒たちが勝手に集まってきて、休日出勤の先生や警備員によく怒られていました。
まあ、そんなことはさておき…。そうしているうち、いきなり背後で教室のドアが開く音がしました。入ってきたのはA美、Y菜、R子という3人のクラスメイトで、校内ではいつもつるんで行動している子たち。私はそのうちの誰ともとくに親しいわけではなかったのですが、そうかといってガン無視するのもアレなので軽く手を振って会釈しました。
「あれ?N野さん(私の苗字)、まだ残ってたの?」
A美に訊かれて素直に頷くと、3人はしばらく肩寄せ合ってヒソヒソと話し合って、やがて再びこちらへ顔を向け、意味ありげな笑みを浮かべながら近づいてきたんです。
「な、何?」
不審に思って首を傾げたら、並んで立っていた真ん中のR子が、何かを持った両手を私の方へ突き出してきて、「ねえ、これ、一緒にやらない?」と誘われました。すぐ横からY菜も、「R子の占い、マジでメチャ当たるよ!サナエッチも試してみなよ!ホント、絶対に当たるから!」と、まるで保険の勧誘のオバサンみたいに強引に勧めてきて…。
R子に見せられたのはタロットカードが入った箱でした。この3人組が占い好きなのは前から何となく気づいていたのですが、でも、よりによってどうして私に?と訊いたら、「なんかさ~、ウチラの中だけで占うのにもう飽きちゃってさ~」と笑いながら言うわけです。要するに自分たちのヒマ潰しの道具にしたかったんですね、私を。
今はともかく、当時は占いとかスピリチュアルとかには全く興味がなかったんですよね。だから「私は良いよ~占いは間に合っているから~。あははは」などと、その場を煙に巻いて逃げようとしたのですが…。彼女たち、瞬く間に周りの机を寄せ集めて、こちらを取り囲むように座っちゃいまして、「さあ、始めよう!」とR子が目を爛々と輝かせて迫ってきました。それでしかたなく、そのヒマ潰しに付き合うことになって…。
R子 「ねね、何、占う?」
私 「別に今は悩んでいることもないし、まあ強いて言えば将来のこと?恋愛とか、仕事とか、結婚とか?」
A美「どんな相手と結婚するかってこと?」
私 「うーん、そこまで遠い未来じゃなくて、もう少し近い未来で、例えば身近な恋が上手くいくかとか」
Y菜 「えっ!もしかしてサナエッチ、好きな人いるのっ?!誰っ、誰っ」
私 「いや、別に好きな人も好いてくれる人もいないんだけれど…」
と、そんな成り行き任せの会話の末、『運命の相手が現れる時期』について占ってもらうことになりました。
ケルト十字法って言うんですか?シャッフルしてまとめたカードを10枚引いて、その半分くらいを十字架の形に並べるやつ、その時のR子はその方法で占っていました。
それで1枚、また1枚と慣れた手付きで並べていったわけですが…。10枚目の最終結論の位置に出たのが、こともあろうに大アルカナの塔の正位置でした。
占いに興味がなかったとはいえ、塔というのは死神や悪魔以上の最悪のカードだということだけは何となく知っていたので、それを見た瞬間にため息が漏れちゃいました。信じる、信じないにかかわらず、やはりそういうのは不快というか、不吉ですから。初詣に行った神社で大凶のおみくじを引いた気持ちというか。それで私、思わず無言のまま、その塔のカードをじーっと見つめちゃって。
占っている側の3人も、バツの悪そうな顔をしていましたね。だって、こっちが嫌だって言うのを無理強いして占った結果が大凶ですから。とくにR子は「こ、これは新しい世界が作られる前の創造的な破壊って意味だから!」とか、なんとか、まあ、必死にフォローしてくれたわけですけれど、そういう慰めの言葉も全く耳に入りませんでした。別に怒って無視したとかではなくて、いつの間にか塔の絵から目が離せなくなっちゃって。
その時の私の目には、カードの絵柄の一部が動いているように見えていました。
ご存知のように塔のカードというのは、神の怒りに触れて崩壊する巨大な高い塔と、そこから落ちてくる人々の様子が描かれている図なんですが、その神様の稲妻に直撃された塔の縁(ふち)に、元の絵の人間とは別の蟻みたいな小さな人影が浮かび出して、それが何度も繰り返して地上へ落ちていくわけです。まるでコマ落としのアニメーションを見ているようで、あらためて思い返してもとても不思議な一瞬でした。
時間にしてどれくらいの間、それを見つめていたでしょうか。30秒…1分…正確には覚えていないのですがその後、私の横に座っていたY菜が喉を詰まらせたような悲鳴を上げて、ようやく我に返りました。
窓の外を指差したまま固まっているY菜の、その人差し指の先をたどると…学校から200メートルくらい離れた場所に建つ工場施設の煙突が目に飛び込み、そのとたんに私も彼女同様、全身が強張ってしまって…。
煙突のテッペンに人間が立っているのが見えたんです。遠目でしたが、どうやらネイビーのビジネススーツを着た女性らしき姿だと分かりました。
「大変!あの人、飛び降りる!」とそこでまたY菜が叫び、次の瞬間、女性は数十メートルも下の道路を目がけて頭からダイブしてしまったんです。
A美とR子もその瞬間を目撃していて、直後の室内は女4人の絶叫の嵐でした。私はその中で一番早くショックから立ち直り、泣き叫ぶ彼女たちを残して職員室へ向かうと、そこに残っていた先生たちに見たばかりの一部始終を伝えました。でも…。
「警察と消防へ通報する前に、道路のどの辺に落ちたのか、念のために確認を」と教頭先生が言い出して、それで若い男の先生と用務員のオジサンがすぐに現場付近へ向かったのですが、15分ほどで怪訝な表情を浮かべて戻ってきました。2人が口を揃えて言うには、「人が落ちたような痕跡はどこにも見えなかった」と。
たしかにその間、救急車やパトカーのサイレンも聞こえてこなかったし、自分でも少し変だなと感じ始めていたのですが、やがて現実には投身自殺など起きていなかったことが判明して、今度は私たち4人が担任から大目玉を食らう羽目になってしまって…。ただ最後には誰も嘘を吐いていないことを何とか分かってもらえて、「一時的に集団幻覚のような状態に陥ったのだろう」という、とても曖昧な結論とともにその件は終わりとなりました。
その後、この不可解な出来事について占い3人組と何度か話し合う機会もあったのですが、やはり集団幻覚に陥ったという以外には説明のしようがなく、何よりも不気味で恐ろしい体験でしたから、早く忘れたいという気持ちも働いて、誰からともなく話題にすることはなくなりました。
またアレが起きる直前、塔の図柄が動いて見えたことについては、最後まで彼女たちには言いませんでした。みんなを集団幻覚に誘導した犯人のように思われたら嫌だし(最初に煙突の人影を見つけたのはY菜なんですが…)、もしも他の子から「じつは私にも動いて見えていた」なんて言われたら、もっと恐ろしい話になってしまうとも思ったので。
でも、今となっては逆に、彼女たちにきちんと伝えなかったことを後悔しています。
まずR子の訃報を人づてに聞いたのは、高校を卒業してから9年目の夏でした。結婚と出産を終えた後、育児ノイローゼに罹ってしまい、住んでいたマンションの最上階から発作的に飛び降りたそうです。
そしてその翌年にはA美も亡くなりました。同じく何かに悩んで投身自殺をしたとのことで、それ以上の事情は知りません。残るY菜はご主人の仕事の都合で関西地方に転居したらしいのですが、元々親しい間柄ではなかったこともあり現在の安否については不明です。
以上が15年前の体験とその後の顛末です。この話をたまたま誰かに話すと「自分で作った怪談でしょう?」とか、「もしそれが事実なら、あなたは怖くないの?」と判で押したように言い返されるのですが、もちろん怖くてたまりませんし、あの時に見たモノは何だったのか?といつも自問しています。
私1人だけが見たあの塔の幻覚については、一種の予知現象として説明できるのかもしれません。しかし、それならば4人同時に目撃したあの煙突の人影は一体何を意味しているのでしょうか?