旅先で体験した怖い話特集
第二章 ホテルの窓
私の体験を聞いてください。これは、親戚の葬儀に出席したときに泊まったホテルでのことです。もう10年も前の話なのですが、父の叔父、つまり私からみれば大叔父が亡くなったときに、両親がちょうど体調を崩して葬儀に出席できず、私はひとりで葬儀に代理出席したのです。
一人で会ったこともない大叔父の葬儀に出席するなんて気も重かったのですが、ちょうど大学も夏休みで、旅行を兼ねて行ってもいいかな、と思って引き受けました。葬儀の前日に泊まったそのホテルの部屋は7階でした。荷物を置いて一休みしてから通夜に出掛け、帰ったのが、9時ぐらいでした。私は、通夜の席でお清めのお酒を勧められるままに飲み過ぎたせいか、すぐに眠くなって風呂にも入らずに着替えてすぐ寝てしまったのです。
夜中に喉が渇いて目が覚め、時計を見るともう一時を回っていました。そして冷蔵庫を開けてジュースを飲んでいた時です。急に「バシッ、バシッ、バシッ」と窓を三回叩く音がしたのです。私は「こんな夜中にうるさいなぁ、酔っ払いがいたずらしてんのかな」と思っただけですぐにまた寝てしまいました。
翌朝、私はまったく何も考えずカーテンをザーッと開け「いい天気だな」と思って外を眺めていたのですが、その時私はあることに気が付いてしまいました。そうです。そこは7階なので誰も外から窓を叩くことなんてできっこないのです。そう思った瞬間、ぞーっとしてしまいました。
会ったこともない大叔父の霊が来たとも思えないし、このホテルで死んだ霊の仕業だったのでしょうか。
(北海道札幌市 上川厚美さん 31歳 公務員)
江川節子先生より
貴女は大叔父さんに会ったことがないと思っていらっしゃいますが、実は貴女が赤ちゃんのときにお祝いを持って貴女の家まで遊びに来てくださっています。この大叔父さんはご両親の仲人さんだったので、ご両親は貴女に葬儀の代理までさせたのですね。このホテルで窓を叩いたのは、間違いなく大叔父さんです。貴女がわざわざ遠いところを来てくれたので、うれしくてお礼を言いに来られたのです。また、機会がありましたらお墓参りをして差し上げてください。