旅先で体験した怖い話特集
第三章 真っ白な猫
結婚して間もない頃、主人と二人でいった温泉で不思議な体験をしました。レンタカーで北東北を回り、ある鄙びた一軒宿に泊まった時のことです。 温泉に来たら一回でも多く風呂に入って元を取りたいという考えの主人は、お茶を淹れてくれた仲居さんが出ていくとすぐにお風呂へ行ってしまい、私は一人ですることもなく、横になっている間に寝てしまったのです。しばらくして、「何かお腹が暖かくて重いなー」と思ってお腹に手をやると、柔らかくてふわふわしたものが触れました。眠い目を開けてお腹を見ると、そこにはなんとも幸せそうな顔をして眠っている真っ白な猫が丸まっていたのです。私は、「窓からでも入ってきたのかな…」と思いながらまた寝てしまいました。
そのあと主人が帰ってきて目が覚めたときには、猫はいなくなっていました。主人に「猫がいたんだけど…」と言うと、「夢でしょ。窓も開いてないし」と言われました。確かに窓は閉まっているので、入ってくるわけもなければ、出ていくわけもありません。やっぱり夢だったのかな、と思い、私も食事前に風呂へ行くことにしました。
そして風呂へ向かう途中、一人で廊下をギシギシと歩いていると、なんと真っ白な猫が、廊下の突き当たりを右から左へと歩いていったのです。私は、とっさに「さっきの猫だ」と思い、走って廊下を左へ曲がりました。しかし猫はどこにも見当たらなかったのです。曲がった先には長い廊下が続いており、猫が隠れるようなところはどこにもありませんでした。でもなぜか怖いとは感じませんでした。そのあと風呂に入って部屋に戻りましたが、宿を出るまで猫には二度と会いませんでした。もう20年近く前のことですが、いまだに忘れられません。
(埼玉県さいたま市 吉川三郷さん 43歳 主婦)
水紀先生より
この猫は、20数年もこの旅館で飼われていた猫ですね。貴女が目撃された10年以上前に死んでいますが、それ以来、守り神のようにこの旅館に住み着いていたようです。他にもたくさん目撃されている方がいらっしゃいます。この猫が現れるのは、吉兆のようです。貴女もこのご旅行から帰られて何か良いことがあったのではないでしょうか。