友人の結婚式の帰りに目撃した無人の霊柩車
今でも、忘れられません。あれは大学時代の友人、S子の結婚式に出た後のことでした。
披露宴では3度もお色直しをして、二次会ではさらに真っ赤なミニのドレスを着たS子は、見惚れるくらいきれいでした。一流商社に勤めるエリートと結婚し、すでに都内の一等地に広いマンションを購入したS子は終始幸せそうに微笑んでいました。
“ああ、いいなぁ。私もエリートじゃなくていいから結婚したい”披露宴に二次会と、ごちそうを食べ過ぎて苦しくなった私は、帰り道そんなことを思いながら歩いていました。我が家の前は街灯のない暗い道を通らなければなりません。遅くなるときは迎えに行くから電話するようにと父に言われていたのですが、その日はほろ酔い気分ですっかり忘れていたのでした。
それでも、いつもの習慣でその道に入った途端、急ぎ足になった私。しかし、反対側から車のライトに照らされ、一瞬目をつぶりました。そして目を開けたとき、その車が霊柩車であることに気づき、なんとなく胸騒ぎがしたのです。おめでたい席に出た後に霊柩車なんて……という思いがあったのも事実です。道幅が狭いので、端に寄って車をよけました。そのとき、見てしまったのです!霊柩車の運転席に誰も乗っていないのを。その霊柩車は無人で走っているのでした。あまりの衝撃に声も出せずにいた私ですが、我に返り、走って家に帰りました。
それから二日後でした。ハネムーン先のフランスで、S子とご主人が車にはねられて亡くなったと聞いたのは……。あの無人の霊柩車はS子夫妻の死を予兆したものだったのでしょうか?
(群馬県前橋市 沼田千佳さん 28歳 会社員)
梨恩先生より
幽霊は人形や動物の姿形をしているとは限りません。千佳さんが見た無人の霊柩車は本当の車ではなく、死を予知する幽霊だったと思われます。霊能力の持ち主が見れば、霊柩車の意味を察知し、何らかの方法でS子さんご夫妻に注意を促すこともできたのかもしれません。しかし、あえて霊能力のない千佳さんの前に現れたということは、S子さんご夫妻の死が変えることのできない宿命だったといえるでしょう。