ひと気のない国道でタクシーを呼び止める不思議な女性
私には変わり者の叔父がいます。叔父は40代で独身、さまざまな職を転々としており、数年前からはタクシードライバーをしています。そんな叔父から直に聞いた不思議な話があります。その日、叔父は飲み帰りのサラリーマン男性を駅前で拾い、家まで送ったそうです。駅からはバスが出ており周辺住民はそのバスを利用しているそうなのですが、夜遅くになると運行が終了してしまうので、飲み帰りの人はタクシーを利用することも多いそうです。その日もサラリーマン男性を家まで送り、それからまた駅前まで戻ろうとしたそうですが……。
路地から大通りに出た直後。オレンジ色の街灯が照らす、ひと気のない国道の隅に、ひとりの女性が立っていました。そして、タクシーを止めようと、手を上げていたそうです。叔父はその姿を一目見ただけで「幽霊かもしれない」と思ったそうです。しかし、呼び止めようと手を上げる人を見てしまった以上、無視するわけにもいかず、その女性の脇に車を止め、ドアを開け、女性を乗せました。
「○○駅までお願いします」はきはきとした口調でそう告げる女性は特にこれといっておかしなところはありません。清楚な雰囲気の20~30代くらいの女性だったそうです。かなり気さくな性格をしており、駅までの間、叔父に何度も話しかけてきて、ずっと世間話をしていたそうです。そして目的地駅に到着して車を止めても、忽然と姿を消している、ということもなく、しっかりと代金を払ってお礼を言い、車を降りていったそうです。しかし、降り際に妙なことを言ったそうです。
「さっきの道路は気をつけたほうがいいですよ」「私が立っていた場所から少し先に交差点がありますね。そこに立っている人は乗せない方が身のためです」と……。彼女はそのまま終電間際の駅に消えていったそうです。
間違いなく生きている人間でしたが、狐につままれたような出来事に変わりはありません。「あれは何だったのか?」と思った叔父は、営業所に戻ってから、その不思議な話を同僚のベテラン運転手たちに話したそうです。すると「その女性は知らないが、交差点の幽霊のことは知ってる」という人が数名ほどいました。
それは、この界隈のタクシー運転手の間ではわりと有名な『乗せてはいけないもの』とのことでした。交差点の幽霊は陰気な雰囲気の男性で、タクシーを呼びとめ、乗り込んでくるそうです。目的地は山中にある古いホテル。実際にある建物なのですが、そこに向かいしばらく車を走らせていると「私はあのホテルで自殺したんですよ」と話し出し、そのまま忽然と消えてしまうそうです。
「何が困るって、幽霊はお金を払わないからね。メーターを動かした分の帳尻が合わなくなるんだよ。それが一番困る」とのことでした。そして、不思議な女性に関しては誰も心当たりがなく、真相は何一つ判明しなかったそうです。「あれはどこかの巫女さんだったのかもしれないね」そう叔父は話していました。
(長野県長野市 橋本夕穂さん 26歳 主婦)
秋斗先生より
実に不思議な体験ですね。もしその女性がそこでタクシーを呼んでいなかったとしたら、叔父様はおそらく次の交差点にいる霊をタクシーに乗せてしまったでしょう。霊視を試みましたところ、実際に交差点の脇にはかなり強力な不浄霊が居るのが視えました。この世に恨みを抱えて自殺した方の怨霊です。直接的な危害を加えられることはありませんが、関わるべき存在ではないとハッキリ言えます。
その女性に関しましては、叔父様の推測が当たらずとも遠からず、といったところしょう。こちらも霊視をしてみましたが、その方の存在は確かに感じるものの、その方の周囲に外部からの念を寄せ付けない小規模な結界が形成されており、内面を覗き見ることはできませんでした。叔父様に対する忠告の口調から察するに、女性は先天的に霊感が強く、また霊への知識や対抗措置をそれなりに身につけた方であることが伺い知れます。巫女というより、我々と同業の方、地元の霊能者か拝み屋といったところでしょう。