花柄のワンピースを着た幽霊
家の近所に、交通事故が多発する道路があります。そこは一見すごく見晴らしが良くて、普通に走っていたら絶対に事故らないと思うような道なのですが、数年に一度くらい車が事故を起こしています。その道路の脇には、事故で亡くなった方の遺族か知り合いの方がそうしているのか、いくつもお花が供えられています。特に気にせず歩いていれば気にならないんですけど、見る人が見るとちょっと異様な感じです。
先日、飲み会で終電を逃してしまって、タクシーで家まで帰った時に、そこの道路を通りました。ほろ酔いでいい気分だったので、タクシーの運転手さんと雑談をしていたのですが、ふと交通事故が多発する場所のことを思い出して、運転手さんに聞いてみたんです。「この先の道路、事故多くないですか? 一見事故なんか起こらなそうなのに、どうしてなんでしょうかね」って聞いてみました。そうしたら、運転手さんは「ああ、あそこはねえ……」とちょっと言い淀んでしまったんです。酔いに任せて「なになに、教えて下さいよ~」って聞いたら、運転手さんは「こんなの女性のお客さんに話すことじゃないんですけどね……」と前置きした後、渋々教えてくれました。
その道路には幽霊が出るらしいです。花柄のワンピースを着た女性で、夜中に車で走っていると突然飛び出してくるとのこと。それに驚いて皆ハンドルを切り、事故を起こしてしまうそうです。なんでもその女性は以前、男性から暴行されたショックで心を病み、車道に飛び出して車に轢かれて自殺を図ったとか。この話は近辺のタクシー運転手の間では有名で、実際に目撃した人も何人もいるとのこと。「あの道路を走っていて花柄のワンピースを着た女性が急に飛び出してきても、気にしてはいけない」という暗黙の了解まであるそうです。
「嫌な話でしょ。でも我々の間では有名なんですよ。お客さんも夜はこの道あんまり通らないほうがいいですよ。まあ、そうでなくても女性の夜の一人歩きはよろしくないですけど」と運転手さんが話しているちょうどその時、その交通事故が多発する道に差し掛かりました。私はふと道路脇のほうに目をやりました。するとそこに花柄のワンピースを着た女性がぼーっと立っていたんです。かなり速いスピードで走っていたので顔や表情まではわかりませんでしたが、とても異様な雰囲気でした。私は今まで幽霊を見たことがありませんでしたが、「この世のものじゃない」とはっきりわかる感じでした。
それ以来、その道路はなるべく使わないようにしています。私自身、車を運転することもあるのですが、どうしてもそこを通らなければならない時は昼間だけ、夜は絶対に車で走らないよう心掛けています。
(東京都調布市 谷中真由子さん 28歳 会社員)
サラ先生より
不思議なほど交通事故が多発する道路は日本各地に存在しており、その中でも「幽霊が出る」と噂される場所は少なくありません。大体そういった場所には事故が多発するなんらかの物理的な理由があり、そこで人が何人か死んだという事実から後付けで幽霊の噂が立つものですが、中には本当に強力な自縛霊が棲みついている道路もあります。
多くの自縛霊は、自分の死の瞬間に取った行動を繰り返す習性を持っています。飛び降り自殺者であれば同じところから何度も飛び降り続けます。ですから、その道路に出没する花柄のワンピースの幽霊も、決して交通事故を誘発させようとしているわけではなく、ただ自分が車に飛び込んで死んだ瞬間の行動を繰り返しているだけなのです。悪意がないからといって、危険なことに変わりはありませんが。
そういった場所であっても昼間通る分には問題ないでしょう。しかし霊は夜間や雨の日を好む性質がありますので、そういった時に通らないようにするのはとても賢明なことです。