物置小屋にいた神様
私はとある地方のちょっと裕福な家庭に育ちました。実家は代々その土地に住み続けているらしく、江戸時代はいわゆる「豪農」と呼ばれる家だったそうです。実家も古い木造家屋で、庭の端には倉がありました。その実家で、不思議な場所があったんです。その場所は裏庭にある離れで、倉庫として使われていました。普段は使わない荷物をそこに置いておくのですが、親に言われて荷物を取りにいく時、とても怖かったのを覚えています。
その離れに入ると必ず「何かがいる気配」がしました。荷物を探している最中、背後で足音がしたり、物音がしたりすることも日常茶飯事でした。私には上に兄がいたのですが、兄もその離れの物置小屋をとても怖がっていました。もっとも兄は強がって、同じように怖がる私を小馬鹿にしてもいましたが、ふたりで入る時は兄妹揃ってビクビクしていた記憶があります。
また、離れには小さな祭壇があり、そこにはお供え物がありました。お供え物は定期的に変えているらしく、いつ行ってもかびてないご飯と、果物があったのを覚えています。どうやらお供え物は祖母が換えているようでした。
そこにいた何かは、小屋から出てこられないらしく、家にいる時はおかしなことはまったく起きませんでした。しかし、お盆が近くなると、時々、夜中に小屋全体がガタガタと揺れる音が響き渡っていました。両親に「怖い」と言って泣きついたこともありましたが、両親はどちらも幽霊や怪談のたぐいをまったく信じないタイプだったので「怖いと思うから怖いんだ」と叱られました。
そんな離れの物置小屋でしたが、実家を立て替えた際に取り壊しことになりました。高校2年生の夏のことでした。取り壊しの際に、近所の氏神様の神社から神主さんが来て、お祓いの祈祷をしていました。当時、祖母がまだ生きていたので、「あそこには何かいたの?」と質問しました。祖母は「神様が住んでいたんだよ」と言っていました。気のせいじゃなく、本当に何かが住んでいたんだと知り、衝撃を受けました。
その後、実家は立て替えられ、その祭壇もなくなってしまいました。祖母曰く、神様は昔から家を支えてくれてきたけど、もうそういう時代ではなくなってしまったから、お帰りいただいたそうです。その数年後に祖母が他界し、詳しいことを知る者は誰もいなくなってしまいました。神様にお帰りいただいたせいかどうかはわかりませんが、兄も私も40代にして未婚のままです。
(大阪府大阪市 種田久美子さん 41歳 保険外交員)
潜眼先生より
古い家が独自の神様を祀っていることは少なくありません。そして、そういった神様の正体は多くの場合、強い力を持つ自然霊や動物霊です。彼らは本来であれば人の手に負えない存在ですが、一定の方法に則って祀ることで、土地や家の守護者として利益をもたらしてくれます。投稿者様のご実家にかつてあったという神棚も、そういった神様を祀るものであったと推測できます。
日本の神様の多くはこういった自然霊や動物霊です。彼らはキリスト教の神様や仏教の仏様と違い、気まぐれで荒っぽい性質を持ちます。自分の気に入った者には力を貸し、嫌う者には危害を加えるのです。ですので、雑に扱われたり、不敬な振る舞いをされたりすると、それまで守っていた土地や家に災いをもたらすことがあります。物置小屋を壊す際に氏神様の神社にお祓いをしてもらったとのことですが、これは追い払ったのではなく、お祖母様がおっしゃったように、丁重にお帰り頂いた、ということです。
ご投稿者様もそのお兄様も40代で未婚のまま、ということですが、これは神様の祟りではありません。ただ、神様の力で子孫繁栄や豊穣の利益を得ていたものが、いなくなり加護が消えた結果そうなった、ということはあるかもしれません。