深夜零時に鏡に映る白い何か
「深夜零時に鏡を見るとこの世のものではないものが見える」という怪談はよくありますが、子供の頃、一回だけ変なものを見たことがあります。その日は夜九時から大好きなアニメ映画をやっていて、弟と一緒に鑑賞していました。弟は途中で眠くなって寝てしまったのですが、私は最後まで見て、そのまま興奮してなかなか寝付けなくなりました。
ちょうど日付が変わる頃、どうしてもトイレに行きたくなってしまい、我慢できなくなり寝床を飛び出しました。そしてトイレに向かう廊下の途中で鏡を見てしまったのです。鏡にはパジャマ姿の自分が映っていたのですが、その斜め後ろにあった半開きの部屋の中に、白くて細長いものが立ってゆらゆらと揺れていたのです。まるで練り物のようでした。ですが、振り返って確認すると何もいませんでした。
そしてもう一度振り返って鏡を見たら、鏡の中にもいませんでした。寝ぼけたのかもしれないと思い、私はそのままトイレで用を足して自室に戻り就寝しました。するとその翌日、高熱を出してしまったのです。三日ほど学校を休みました。あれはおそらく人が見てはいけないものだったんじゃないかと思います。見たのが一瞬だったので高熱で済んだのかもしれません。
(広島県東広島市 芳村麻琴さん 37歳 接客業)
菱永先生より
怪談話の類は半分誇張、そして半分は真実です。「深夜零時に鏡を見るとこの世のものでないものが見える」という話も、決して根も葉もない話ではありません。不浄霊や動物霊、自然霊といったこの世のものではない存在は、物事の境目を通して物質界に干渉してくることがあります。例えば夕暮れ時は「逢魔が時」と言われ、鬼や魔物に遭いやすいと言われてきました。また辻や川といった土地の境界線では悪いものに遭いやすいという話もあります。「深夜零時」というのも境界のひとつであり、また「鏡」というのも境界の意味を持ちます。深夜零時に鏡を見た人が全員幽霊を見るということはありませんが、通常であれば霊を見ることのない人でも見やすい条件である、と言うことはできるでしょう。