首から上がない写真
独身時代、病院に勤務していました。病院は人の命に係わる出来事が多いことから、心霊現象も多く、ちょっとした怪異には慣れっこでした。夜の見回りで妙な人影を見たり、無人の病室からナースコールが飛んできたり、亡くなった患者さんが訪ねてきたりしたこともあります。どれも日常茶飯事……とまではいかないまでも、まあ病院ならないこともない、くらいの範囲でした。でも、ひとつだけどうしても忘れられないくらい怖かった出来事があります。いまでも思い出すとゾッとします。プライバシーに配慮して身元がわからないように書きます。
とある重い病気で入院している小さな女の子がいました。病院側も最善手を尽くしてはいましたが、回復は難しく、日に日に弱っていきました。お母さまは毎日足しげく通っていました。ある日、その女の子に学校の友人たち数人が見舞いに来ました。そして、みんなで写真を撮ろうという話になったんです。お母さまがカメラを撮ろうとしましたが、たまたま見回りで病室に来ていた私は、「自分が撮りますよ」と言いました。カメラは最近のデジカメやスマホカメラではなく昔流行ったインスタントカメラです。「じゃあお願いします」そう頼まれ「はいチーズ」とよくある掛け声で撮りました。その時はそれで特に何事もなく終わりました。
でも、それからしばらくして、女の子のお母さんが私のところに来ました。とても浮かない表情でした。「看護婦さんが悪いわけではないのはわかっているんです、でも、誰にも見せられなくて、どうしても看護婦さんだけには見てもらいたくて」そう言われ、先日撮った写真を見せられました。一見何の変哲もない写真でしたが、みんなの真ん中にいるその子の首から上がありませんでした。「えっ、これ……」「こんなのとてもあの子に見せられません。お友達にも見せたくありません。この写真は看護婦さんが失敗して撮れていなかったことにしてもらっていいですか。もしこの写真のことを尋ねられたらそう言って下さい。お願いします」そう言われ、私は首を縦に振るしかありませんでした。その子はその写真から数週間後に病態が悪化して亡くなりました。
(東京都八王子市 篠津百合子さん 45歳 主婦)
琴響先生より
「心霊写真」と呼ばれる写真にはさまざまな種類があります。霊体や念が写真に写りこんでしまったものがもっともポピュラーですが、近いうちに命を落とす可能性がある人、大けがをする恐れのある人が写真の中でその部分を失って写ることも稀にあります。我々も霊能者を生業にしていると時々遭遇するのですが、どうしても亡くなる運命の方はいらっしゃいます。運命で定められた不可避な死というものがあるのです。お亡くなりになった女の子はとても残念ですが、「そういうもの」として受け止める他ないでしょう。