災厄を巻き起こす日本刀
第3話
青森県むつ市で在宅鑑定をしていた際、ご依頼者様が「見て欲しい」と持ち込んできた古い日本刀。鑑定してみたところ恐ろしい因縁を持っていることがわかり……。
イタコとして活動していた頃のお話です
私は現在、電話占い天啓で“イタコ出身の霊能者”として活動しています。過去には青森県むつ市でイタコとして活動していた時期がありました。イタコと言いますと恐山のイメージが強いかと思われますが、実際のところ、恐山にいるのは年に二回の恐山大祭の時のみ。普段は青森各地の街や村で一般人として生活している者がほとんど。大祭に出ないイタコも少なくありません。私もその一人で、師匠の下での修業を終えた後、青森県むつ市の自宅にて鑑定を請け負う形で、しばらくの間活動していました。
イタコは地元において「なんでも相談できる民間の祈祷師」といった扱われ方をしています。霊降ろし以外にも、将来の問題や仕事の悩み、恋愛、結婚といった生活に密着した内容をご依頼してくる方が多数いらっしゃいます。琉球地方における「ユタ」と似ています。「電話占いでイタコに恋愛相談」と言いますと、世間でのイタコのイメージとはかけ離れているように思えますが、実際には決してそのようなことはないのです。
話が逸れてしまいました。これは実際にイタコとして青森県むつ市での自宅で活動していた頃のお話です。とある立派なお屋敷のご主人がやってきて「家の倉にある刀を見て欲しい」とおっしゃってきました。
倉から持ち出すと祟る刀
その刀はご相談者様が子供のころから家の倉にあったそうです。古い値打ち物で、お祖父様から「決して触ってはならない」ときつく言われていたそうです。また、その刀の取り扱いにはもうひとつルールがありました。それは「倉から出してはいけない」というものでした。倉から出すと持ち主を祟って災厄を巻き起こすそうです。触るだけで怒られる、さらに倉から持ち出したらとんでもないことになる、ということで、腫物扱いをされていました。
ご相談者様が家の跡継ぎとなった現在、刀のある倉は老朽化が進んでいました。以前からそろそろ建て替えたいと考えていたそうですが、持ち出すと祟るという刀のせいでずっと二の足を踏んでいたそうです。しかし数か月前に大型台風に襲われた際、壁がボロボロと崩れてきたそうで、意を決して倉の建て替えを決意。その前に……と、イタコ霊媒師に刀を鑑定してもらうことにしたそうです。
立ち上る赤黒い邪気
ご相談者様の自宅へ伺い、倉を拝見させていただいたところ、確かに老朽化は進んでいますが、とても静謐で澄んだ霊気を感じました。古い蔵には厄介な霊、物の怪の類が棲んでいることが少なくないのですが、そういった気配はまったく感じられません。ただし、例の刀、持ち出すと祟ると言われている刀だけは、大変まがまがしい邪気を放っていました。鞘に入った状態でも刀身から赤黒い気を放っており「これは人を何人も斬り殺した刀だ」とすぐに分かりました。
倉自体の清浄な気。それと相反する刀のまがまがしい邪気。倉が“結界”の役割を果たしていることは一目瞭然でした。「持ち出すと祟る」というのも当然です。刀は放っておくと良くないものを無尽蔵に引き寄せる力があり、倉の中にしまわれることで封じられていたのです。
イタコ数名による封印
刀の災厄を解き放たないまま倉を立て替えるためには、一時保管場所となる別の結界を作る必要がありました。これは私一人の力では不可能でしたので、イタコ組合に連絡を取り、事情を説明し、霊力の高いイタコ数名ほどに手伝っていただく形で行いました。
ヒノキの箱を用意し、札を用意し、さらにイタコ数名がかりで大きな和紙に霊力を込めて封印の呪文をびっしり書き記し、それで刀を厳重に包み、箱に入れ、札を貼った上で、私の自宅の一室に祭壇を組んで保管しました。封印の効果は約半年。その間に老朽化した倉を取り壊し、職人さんに依頼して昔ながらの蔵を建て直しました。そして再びイタコ数名ほどで集まり、倉の中にしっかりとした結界を作り直し、刀の邪気が決して外に漏れないようにしました。これには三日三晩かかりました。
語るのもおぞましい怪異に…
もし刀をそのまま持ち出していたらどうなっていたか。それは刃が放つ赤黒い邪気が如実に物語っていると言えましょう。霊視によるとあれが作られたのは室町時代後期。江戸時代には刀に魅入られた浪人が辻斬りになったこともあるようです。その後、明治維新でも何人もの人の生き血を吸い取り、巡りめぐってご相談者様の家に引き取られたようです。
もし倉から持ち出した場合、また封印が解けてしまった場合、その刀は周囲の悪霊や邪鬼、物の怪など悪しきものを際限なく引き寄せます。また手に取った者には「人を斬り殺したい」という衝動を芽生えさせ、猟奇犯罪を引き起こさせます。
実際、あの刀を自宅で保管していた半年間、語るのもおぞましい怪異に何度も見舞われました。イタコ数名による厳重な封印があったにもかかわらず、溢れる邪気を完全には止められなかったのです。
「世の中には人の力ではどうにもならない物がある」という貴重な体験をさせていただきましたが、本音を申し上げれば、もうあのような物には決して関わりたくありません。