ホテルの302号室
第5話
観光地にある某ホテルのオーナー様からいただいた鑑定依頼。「出る」と言われている302号室をどうにかしてほしいと頼まれ、向かってみたところ…。
出ると評判の部屋
以前、とあるホテルの一室を鑑定したお話です。そのホテルの302号室は前々から「出る」と評判で、宿泊客が妙な現象に遭うトラブルも多く、一般客を泊めることは禁止になっていました。しかし、使わないまま腐らせておくのは勿体ない、なんとか使えるようにしたい、というオーナー様の意向により、霊能者である私が除霊をすることになったのです。なお鑑定前に、「その部屋で過去に事件や事故の類はありませんでしたか?」と訊ねたところ、「一切ありません」とのことでした。
向かい合うように佇む男女の霊
そのホテルはとある観光地の片隅にある、ごく普通の観光客向け宿泊施設でした。建物や場所自体には特に嫌な気配もしません。しかし、オーナー様に案内されて302号室の前までやってくると、部屋の内側から異様な瘴気が漂ってきているのを感じました。鍵を開けて中に入れていただくと、不浄霊の気配に鳥肌が立つのを感じました。
部屋自体はよくある和風の部屋といった感じでしたが、もう半年以上誰も足を踏み入れていないようで、居間のテーブルの上にはうっすら埃が溜まっていました。そして、部屋の中心に二体の不浄霊が佇んでいました。一体は男性、もう一体は女性の霊で、なぜかお互い向かい合うような姿勢で、茫然と立っているのです。
二人が抱える強い執念の正体
二体の不浄霊は強い執念を抱えているようですが、特にこちらに向かって敵意を放ってくることはありませんでした。そこで私は霊体に向けて思念を飛ばし、接触を試みてみました。「あなた方はなぜそこにいるのですか?」そう訊ねると、女性の霊がこちらを向き、「私たちが最後に泊まったのがこの部屋なのです」と答えました。
「お二人はそれから心中されたのですか?」と訊ねると、男性の霊もこちらを向き、ふたりは無言でうなずきました。
二人はかつて不倫カップルで、互いの家庭を捨てて一緒になろうとしたようです。しかし女性の夫が離婚に反対してどうしても折れず、現世では結ばれないと判断したふたりは、心中する結末を選び、最後の夜をこのホテルの302号室で過ごしました。翌日、近くにある湖に身を投げたようです。
来世での邂逅を願い成仏した二人
ふたりは互いに対して強い執着の念を抱いており、その執着の念で最後の一夜を過ごした部屋に地縛霊として留まり続けていました。ですので、「現世でちゃんと成仏して来世で結ばれたほうが二人のためになる」「来世でもう一度巡り会えれば二人は愛し合える」と説得しました。最初のうちは執着の念をなかなか拭い去れませんでしたが、次第にふたりもこちらの意思を受け入れるようになり、最終的には「来世で必ず結ばれます」と言い残して成仏していきました。
オーナー様いわく、鑑定以降、部屋で妙な現象が起きることはなくなったそうです。最初は従業員の仮眠室として使用してみて、特に誰もおかしな目に遭わなかったとのことで、現在はふたたびお客様宿泊用の部屋として使用しているとのことでした。