忘れられた墓
第6話
とある村役場からの鑑定依頼が入りました。内容は「村はずれにある、誰もお参りに訪れない昔の墓を撤去したい」というもの。現地に赴き霊視鑑定してみたところ…。
某県の小さな村役場からの依頼
以前、某県の小さな村の役場からイタコ組合へとご連絡をいただき、古いお墓を鑑定しました。村はずれに一基の古い墓があり、現在は誰もお参りに訪れておらず、雑草まみれになっているそうです。「住人達が不気味がり、霊を見たという者も続出している。どうにか撤去したいが、どうすれば良いのかわからない」そうイタコ組合に依頼が入り、組合の代表として実際に村まで足を運ぶことにしました。
各駅停車の駅を降り、そこからバスに一時間ほど揺られ、ようやく依頼の村にたどり着きました。山あいにある小さな村で、とても自然豊かな土地でした。霊山修業を積んだこともある私は自然の醸し出す霊気に少し懐かしさを覚えました。人間は本来、こういった自然に囲まれた土地で暮らすべきなのかもしれません。
到着したことを告げると、村長さん自ら出迎えて下さいました。かくしゃくたる壮年男性で、礼儀正しく挨拶をして下さいました。「長旅でお疲れでしょう。まずはこちらへ」とお宅に案内していただき、お茶をごちそうになった後「ではさっそくですが、例の墓を見ていただけますでしょうか」と言われ、村はずれの墓に案内していただきました。
村はずれにある古い墓
夏場だったこともあり周囲には雑草が生い茂っていましたが、その墓に向かう道は草が刈り取られて獣道のようになっていました。徒歩で進むとやがて一基の墓石が見えてきました。特に禍々しい霊気を感じることはなく、「霊的には安定した場所だ」と感じました。
墓石はだいぶ古く、刻まれた文字はところどころ擦れて読めなくなっています。「誰もお参りに訪れなくなって久しい」とのことでしたが、それほど汚れてはおらず、誰かが時々手入れをしている様子がうかがい知れました。
墓の前に座り、手を合わせ、お供え物をしました。その後霊視を開始すると、すぐに一体の霊体が現れました。着物を着た和服の女性。地方独特の訛りがありながらも、礼儀正しい口調で「この度はご足労をおかけして申し訳ありません」という意思を伝えてきました。女性霊は墓の主の血族の方ようで、私がどうしてここへやってきたのかを全て理解している様子でした。そして彼女から、墓の持ち主である一族のことを教えてもらいました。
霊が伝えてくれた一族の結末
墓はかつてこの村に住んでいた一族のもの。かつては近くに大きな屋敷を構えていた。戦争で父と跡取り息子の長男が亡くなり、母と娘ふたりは戦後の高度経済成長期に都会に出ていった。母はそれからすぐ、姉も30代の若さで病気をこじらせ独り身のまま亡くなった。妹も生涯独身で十年ほど前に亡くなった。亡くなる寸前まで妹が墓参りに訪れていたが、血筋が途絶えて久しい。
村に迷惑をかけているのは承知している。撤去して欲しい。恨んだり祟ったりしないから安心して欲しい。だけど、せめて最後にもう一度だけ供養して欲しい。
女性霊は静かにそう伝えてきました。
最後の供養
村長にありのままを話すと、「そうですか…あの子はお亡くなりになったのか…」と呟きました。かつて妹さんと面識があり、子供の頃はよく遊んでいた幼馴染とのこと。彼女の一族の墓であることは知っていたが、誰も訪れる者がなくなり、どうしていいか悩んでいたそうです。「誰も訪れないお墓をお手入れしていたのはあなただったのですね」そう訊くと、無言で頷き、「あの一族のことを知る者も少なくなりました。せめて自分が、と思いまして」とおっしゃいました。
日暮れが迫ってきたので、その日は村長の家に宿泊させていただくことになりました。そして翌日、村長と、一族を知る村のお年寄りの方々が数名ほど集まって下さり、にぎやかな最後の供養を行いました。儀式は滞りなく終わり、先日の女性霊も満足げな表情を浮かべながら昇天していくのが見えました。彼女は一族を護る守護霊化していましたが、使命から解放され、霊界に返っていったのです。
その後、墓はお払い済みとして撤去されたそうです。工事も特に事故の類はなく終わり、その後も怪異現象の類は一切起きていない、とのご報告をいただきました。